くろの数学手記

数学に関する小話などを書いていきたいです. 学部生なのでお手柔らかに.

ルベーグ可測集合系の濃度

ルベーグ可測集合系とは,  \mathbb{R}中のルベーグ可測集合全体を指します.  以後,  これを\mathfrak{M}と書くことにします.  さて,  目標は\mathfrak{M}の濃度,  すなわち|\mathfrak{M}|を求めることです.  これは,  私が数学基礎論セミナーで読んでいたとある数学書に,  演習問題として載っていたものです.  解答はおろかヒントすら載っていなかったので,  苦労を強いられました...

さっそく証明に移りましょう.  後で明らかになりますが,  証明の核心は,  ルベーグ測度0の非可算集合の構成にあります.

まず,  次の記法を用意します.

記法.1
部分集合I\subset\mathbb{R},  実数a,b\in\mathbb{R}に対して,  aI+b:=\{ax+b~|~x\in I\}と書く.

 次に,  カントール集合を定義します.  これがルベーグ測度0の非可算集合であることを,  後に示します.

定義.2
\displaystyle I_0:=[0,1], I_n:=\left(\frac{1}{3}I_{n-1}\right)\cup\left(\frac{1}{3}I_{n-1}+\frac{2}{3}\right) とし,  \mathfrak{c}:=\bigcap_{n=0}^\infty I_nと定義する.  
\mathbb{R}の部分集合\mathfrak{c}を,  カントール集合という.
命題.3
  1. カントール集合\mathfrak{c}ルベーグ可測.  すなわち,  \mathfrak{c}\in\mathfrak{M}.
  2. \mu\mathbb{R}ルベーグ測度とするとき,  \mu(\mathfrak{c})=0.

(証明)

  1. \mathfrak{c}は,  可算個のルベーグ可測集合I_n~~(n=0,1,2,\cdots)の共通部分なので,  ルベーグ可測である.
  2. \mu(I_0)=1,~~\mu(I_n)=\displaystyle\frac{2}{3}\mu(I_{n-1})より,  \forall n\in\mathbb{N},~\mu(I_n)=\left(\displaystyle\frac{2}{3}\right)^n.  よって,  \mu(\mathfrak{c})\le\mu(I_n)=\left(\displaystyle\frac{2}{3}\right)^nが任意のn\in\mathbb{N}について成り立つ.  ゆえに\mu(\mathfrak{c})=0.  
    \Box

カントール集合が非可算であることを示すために,  次の補題を示そう.

補題.4
3進展開で0.a_1a_2a_3\cdots~~(a_n=0~or~2)と表せる実数全体をXとおく.  このとき,  X\subset\mathfrak{c}が成り立つ.
(証明)
\mathfrak{c}:=\bigcap_{n=1}^\infty I_nであるから,  \forall n\in\mathbb{N},~X\subset I_nを示せば良い.  nに関する帰納法で示そう.  X\subset I_0:=[0,1]は明らかである.  n\gt 0とする.  x=0.a_1a_2a_3\cdots\in Xを任意にとる.  a_1=0~or~2より,  3x3x-2のうち一方はXに属す.*1  Xに属する方をyとおくと,  帰納法の仮定よりy\in X\subset I_{n-1}.  今,  \displaystyle x=\frac{1}{3}y~or~\frac{1}{3}y+\frac{2}{3}となっているので,  x\in I_n.  よってX\subset I_n.  以上で,  nに関する帰納法によって\forall n\in\mathbb{N},~X\subset I_nが示された.  したがって,  X\subset\mathfrak{c}が成り立つ.
\Box
系.5
カントール集合\mathfrak{c}\mathbb{R}と同じ濃度*2をもつ.  すなわち,  |\mathfrak{c}|=2^{\aleph_0}.
(証明)
補題.4よりX\subset\mathfrak{c}\subset\mathbb{R}なので,  |X|\leq|\mathfrak{c}|\leq|\mathbb{R}|=2^{\aleph_0}が成り立つ.  一方,  \mathbb{N}から2点集合への写像全体と,  Xとの間には全単射が存在するので,  \mathbb{N}の冪集合\mathfrak{P}(\mathbb{N})Xとの間に全単射がある.  よって,  |X|=2^{\aleph_0}が成り立つので,  |\mathfrak{c}|=2^{\aleph_0}が従う.
\Box
これで,  カントール集合\mathfrak{c}ルベーグ測度0の非可算集合であることがわかりました.  それでは,  目標としていたルベーグ可測集合系の濃度|\mathfrak{M}|を計算しましょう.
定理.6
\mathfrak{M}\mathbb{R}ルベーグ可測集合全体とするとき,  |\mathfrak{M}|=2^{2^{\aleph_0}}が成り立つ.
(証明)
\mu(\mathfrak{c})=0であることとルベーグ測度の完備性から,  \mathfrak{c}の任意の部分集合はルベーグ可測である.   よって,  \mathfrak{P}(\mathfrak{c})\subset\mathfrak{M}\subset\mathfrak{P}(\mathbb{R})が成り立つ.  系.5より|\mathfrak{P}(\mathfrak{c})|=|\mathfrak{P}(\mathbb{R})|=2^{2^{\aleph_0}}であるから,  |\mathfrak{M}|=2^{2^{\aleph_0}}が従う.
\Box
結局,  \mathbb{R}ルベーグ可測集合全体\mathfrak{M}は、\mathbb{R}の冪集合と同じ濃度を持つことがわかりました.  \mathfrak{M}\mathbb{R}の部分集合族なので,  これはルベーグ可測集合が考えうる限りもっとも多く存在することを意味します.  
さて,  証明の核心は,  この記事の冒頭でも述べたとおり,  ルベーグ測度0の非可算集合の構成でした.  そのような集合を構成することができれば,  ルベーグ測度の完備性によって,  大量のルベーグ可測集合を生み出すことができるからです.  今回はルベーグ測度0の非可算集合としてカントール集合を構成しましたが,  カントール集合である必要はないということです.

*1:3進数表示で3x=a_1.a_2a_3\cdotsとなることから従う.

*2:連続体濃度2^{\aleph_0}のこと.  |\mathbb{R}|=2^{\aleph_0}となることが知られている.