くろの数学手記

数学に関する小話などを書いていきたいです. 学部生なのでお手柔らかに.

Galois群の計算

 今回は, 多項式X^7-11\mathbb{Q}上のGalois群に関する問題を解きます. これは某大学院入試の過去問ですが, なかなかハードな部類に入ると思います. 問題は次の通りです.

問題 f(X):=X^7-11\mathbb{Q}上の最小分解体をL_fとおく. 体の拡大L_f/\mathbb{Q}の中間体の個数を求めよ.

 Galoisの基本定理より, L_f/\mathbb{Q}の中間体はGalois群G:=Gal(L_f/\mathbb{Q})の部分群と1対1に対応します. よって, Gがいくつの部分群を持つかを調べれば良いです.

\zeta:=e^{\frac{2\pi i}{7}}, \alpha:=\sqrt[7]{11}とおく. fの根は\alpha\zeta^k~(0\le k\le 6)なので, L_f=\mathbb{Q}(\zeta,\alpha)となります. 

主張.1 L_f/\mathbb{Q}は42次拡大.

(証明)

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円分体の一般論から\mathbb{Q}(\zeta)/\mathbb{Q}は6次拡大. Eisensteinの既約判定法(p=11)によりf\mathbb{Q}上既約なので, \mathbb{Q}(\alpha)/\mathbb{Q}は7(=\deg f)次拡大. よって, [L_f:\mathbb{Q}]は6と7の倍数である. 一方で, L_f/\mathbb{Q}(\zeta)は高々7次拡大なので, L_f/\mathbb{Q}は高々42次拡大. したがって, L_f/\mathbb{Q}は42次拡大である.

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 これで, |G|=42がわかりました. L_f\mathbb{Q}\zeta\alphaで生成されるので, Gの元は\zeta\alphaの行き先で決まります. よって, \phi\in G(\phi(\zeta),\phi(\alpha))で表せます. 一方で, \zeta\alphaはそれぞれ\mathbb{Q}上の共役元に飛ばねばなりません. \zetaの共役元は\zeta^m~(1\le m\le 6)の6個, \alphaの共役元は\alpha\zeta^n~(0\le n\le 6)の7個. |G|=42なので, 結局G=\{ (\zeta^m,\alpha\zeta^n)~|~1\le m\le 6,~0\le n\le 6 \}となります.

主張.2 \sigma:=(\zeta^3,\alpha),~\tau:=(\zeta,\alpha\zeta)とおく.
(1) *1ord(\sigma)=6, ord(\tau)=7.
(2) G=\{ \tau^j \sigma^i~|~0\le i\le 5,0\le j\le 6\}.

(証明)

(2)のみ示す. \tau^j \sigma^i(\zeta)=\tau^j(\zeta^{3^i})=\zeta^{3^i}, \tau^j \sigma^i(\alpha)=\tau^j(\alpha)=\alpha\zeta^jより, \tau^j \sigma^i=(\zeta^{3^i},\alpha\zeta^j)である. 簡単な計算により, \{(\zeta^{3^i},\alpha\zeta^j)~|~0\le i\le 5,0\le j\le 6\}

=\{ (\zeta^m,\alpha\zeta^n)~|~1\le m\le 6,~0\le n\le 6 \}

=G がわかる.

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 これで, G\sigma\tauで生成され, さらにGの元は\tau^j \sigma^iという標準形をもつことがわかりました. 部分群の計算には元の位数の情報が有効なので, Gの元の位数を求めましょう.
主張.3
(1) \tau=\sigma^{-1}\tau^3\sigma.
(2) i\ne 0なら, (\tau^j\sigma^i)^n=\tau^{\frac{3^{in}-1}{3^i-1}j} \sigma^{in}.

(証明)

(1)は簡単な計算により分かるので, (2)のみ示す. 以下, i\ne 0とする.

(\tau^j\sigma^i)^n=\tau^{b_n}\sigma^{a_n}とすると,

\tau^{b_n}\sigma^{a_n}=\tau^{b_{n-1}}\sigma^{a_{n-1}}\tau^j\sigma^i=\tau^{b_{n-1}}\sigma^{a_{n-1}}(\sigma^{-1}\tau^3\sigma)^j\sigma^i

=\tau^{b_{n-1}}\sigma^{a_{n-1}-1}\tau^{3j}\sigma^{i+1}

=\tau^{b_{n-1}}\sigma^{a_{n-1}-1}(\sigma^{-1}\tau^3\sigma)^{3j}\sigma^{i+1}

=\tau^{b_{n-1}}\sigma^{a_{n-1}-2}\tau^{3^2j}\sigma^{i+2}

=\cdots

=\tau^{b_{n-1}}\sigma^{a_{n-1}-a_{n-1}}\tau^{3^{a_{n-1}}j}\sigma^{i+a_{n-1}}

=\tau^{b_{n-1}+3^{a_{n-1}}j}\sigma^{i+a_{n-1}}.

よって, 次の連立漸化式を得る.

\begin{array}{l} a_n=a_{n-1}+i \\ b_n=b_{n-1}+3^{a_{n-1}}j \\ a_0=b_0=0 \end{array}

これを解くことは高校レベルの簡単な計算問題であるから, 解のみを述べる.

 a_n=in,~b_n=\frac{3^{in}-1}{3^i-1}j.

よって, (\tau^j\sigma^i)^n=\tau^{\frac{3^{in}-1}{3^i-1}j}\sigma^{in}である.

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 これで, Gの元の位数を求めることができます. 既に述べた通り, Gの元は\tau^j\sigma^iという一意的な表示(標準形)を持ちます. i=0またはj=0のときは位数は明らかなので, 以下ではi\ne 0,~j\ne 0とします. \sigmaの位数は6で\tauの位数は7なので, 主張.3の結果から, in\equiv 0 \pmod 6, \frac{3^{in}-1}{3^i-1}j\equiv 0 \pmod 7を満たす最小のn\gt0\tau^j\sigma^iの位数です. \mathbb{Z}/7\mathbb{Z}が体であることに注意すると, \frac{3^{in}-1}{3^i-1}j\equiv 0 \pmod 7
\Leftrightarrow 3^{in}-1\equiv 0 \pmod 7
\Leftrightarrow in\equiv 0 \pmod 6. よって, 次を得ます.
主張.4 \tau^j\sigma^iの位数は, 表に示すとおりである.

i \ j 0 1 2 3 4 5 6
0 1 7 7 7 7 7 7
1 6 6 6 6 6 6 6
2 3 3 3 3 3 3 3
3 2 2 2 2 2 2 2
4 3 3 3 3 3 3 3
5 6 6 6 6 6 6 6

 それではいよいよ部分群の計算に入りましょう. Lagrangeの定理より, Gの部分群の位数としてあり得るのは1,2,3,6,7,14,21,42です. 位数1の部分群は単位群\{1\}しかありえず, 位数42の部分群はG自身しかありえません. 素数位数の群は巡回群なので, 特に位数2,3,7の部分群はすべて巡回群です. \mathbb{Z}/2\mathbb{Z}は位数2の元1つと単位元からなるので, Gの位数2の部分群はGの位数2の元1つと対応します. 主張.4よりGは位数2の元を7つ持つので, 位数2の部分群は7つであることがわかります. 同じように, \mathbb{Z}/3\mathbb{Z}は位数3の元2つと単位元からなるので, 位数3の部分群は位数3の元2つと対応し, Gの位数3の部分群は7つ. \mathbb{Z}/7\mathbb{Z}は位数7の元6つと単位元からなるので, 位数7の部分群は位数7の元6つと対応し, Gの位数7の部分群は1つ. 残るは位数6,14,21の部分群だけです.

主張.5 
(1) Gの位数6の部分群はすべて巡回群.
(2) Gの位数6の部分群は7つ.
(3) Gにおいて, H:=\{\tau^j\sigma^i~|~i=0,3;0\le j\le 6\}は位数14の唯一の部分群.
(4) Gにおいて, K:=\{\tau^j\sigma^i~|~i=0,2,4;0\le j\le 6\}は位数21の唯一の部分群.

(証明)

(1) 位数6の群は対称群S_3巡回群\mathbb{Z}/6\mathbb{Z}のいずれかに同型であることが知られている. S_3の相異なる2つの位数2の元(互換)は, 掛け合わせることで位数3の元になる. ところが, Gにはそのような位数2のペアは存在しない. 実際, 主張.4よりGの位数2の元は\tau^j\sigma^3と表わせ, ord(\tau^j\sigma^3\tau^{j'}\sigma^3)=ord(\tau^{j-j'})\ne 3. したがって, Gの位数6の部分群はすべて巡回群である.

(2) \mathbb{Z}/6\mathbb{Z}は位数6の元を2つ含むので, (1)と合わせると, 結局位数6の部分群は位数6の元2つと対応する. よって, 主張.4より7つである.

(3) Hが部分群であることは容易に確かめられる. 逆に, 位数14の部分群H'があったとすると, Lagrangeの定理からH'の元の位数は14の約数である. ところが, 主張.4によると, そのような元はGにちょうど14個しかなく, それらはすべてHの元である. よって, H'=Hとなる.

(4) (3)と同様に示すことができるので, 省略する.

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 以上で, 目標の問題を解くことができました. 以下に結果をまとめておきます.

結果 f(X):=X^7-11\mathbb{Q}上の最小分解体をL_fとおく.
L_f/\mathbb{Q}は42次拡大であり, そのGalois群Gal(L_f/\mathbb{Q})*2は表に示す通り合計26個の部分群をもつ. したがってGaloisの基本定理より, L_f/\mathbb{Q}は26個の中間体をもつ.

位数 1 2 3 6 7 14 21 42
個数 1 7 7 7 1 1 1 1

 

 

 

 

 

*1:ordは元の位数を指す.

*2:今回は特にふれなかったが, 実はこのGalois群は半直積\mathbb{Z}/7\mathbb{Z}\rtimes\mathbb{Z}/6\mathbb{Z}に同型.