くろの数学手記

数学に関する小話などを書いていきたいです. 学部生なのでお手柔らかに.

任意素数を法として可約な既約多項式

\mathbb{Z}係数多項式の既約性に関して,  次が成り立ちます.

定理.1
f(X)\in\mathbb{Z}[X]をモニックとする.  ある素数pが存在してf\bmod pで既約ならば,  f\mathbb{Z}上既約.
(証明)
f=gh~~(g,h\in\mathbb{Z}[X])とする.  fがモニックより,  g,hの最高次係数は\pm 1である.  \mathbb{Z}係数多項式fの係数を\bmod pで考えて\mathbb{F}_p*1係数多項式とみなしたものを,  \bar{f}と書くことにしよう.  すると,  \bar{f}=\bar{g} \bar{h} \pmod p*2となるが,  \bar{f}が既約より,  \bar{g}\in\mathbb{F}_p^\timesとして良い.  gの最高次係数は\pm 1であったので,  g=\pm 1となるしかない.  したがって,  f\mathbb{Z}上既約である.
\Box
 さて,  この記事では,  定理.1の逆が成り立たないことを示そうと思います.  すなわち目標は,  \mathbb{Z}上既約だが任意の素数pに対して\bmod pで可約となるようなモニックf(X)\in\mathbb{Z}[X]を与えることです.  実は,  X^4 +1がこの条件を満たすのですが,  その証明の前にいくつか準備をします.  (事実と書いたものはこの記事では証明しませんが,  今後別の記事で証明を与えるかもしれません.)
事実.2 (アイゼンシュタインの既約判定法)
f(X)=a_n X^n+\cdots+a_1 X^1+a_0\in\mathbb{Z}[X]~~(a_n\neq 0)は,  次の条件(i)(ii)(iii)を満たす素数pが存在するならば\mathbb{Z}上既約である.
(i) a_npの倍数でない.
(ii) a_{n-1},\cdots,a_0pの倍数.
(iii) a_0p^2の倍数でない.
定義.3
p素数m\in\mathbb{Z}pの倍数でないとする.
(1) a^2=m\pmod pとなるa\in\mathbb{Z}があるとき,  m\bmod p平方剰余であるという.
(2) pが奇素数なら,
\left(\displaystyle\frac{m}{p}\right)=\begin{cases}1~~~~(mが\bmod pで平方剰余)\\ -1~(otherwise)\end{cases}

と定義し,  これをルジャンドル記号という.*3
事実.4
pが奇素数で,  m,n\in\mathbb{Z}pの倍数でないならば,
\left(\displaystyle\frac{mn}{p}\right)=\left(\displaystyle\frac{m}{p}\right)\left(\displaystyle\frac{n}{p}\right).
 これで準備ができたので,  証明に入ります.
命題.5
(1) X^4 +1\mathbb{Z}上既約.
(2) 任意の素数pに対して,  X^4 +1\bmod pで可約.
(証明)
(1) f(X):=X^4 +1とおく.  f(X+1)=(X+1)^4 +1=X^4+4X^3+6X^2+4X+2であるから,  素数2に関するアイゼンシュタインの既約判定法により,  f(X+1)\mathbb{Z}上既約.  したがって,   f(X)=X^4 +1\mathbb{Z}上既約である.
(2) 以下,  \mathbb{F}_p上で考える.
  (i) a^2=2となるa\in\mathbb{F}_pが存在するとき,
X^4+1=(X^2+aX+1)(X^2-aX+1)より,  X^4 +1\bmod pで可約.
  (ii) b^2=-2となるb\in\mathbb{F}_pが存在するとき,
X^4+1=(X^2+bX-1)(X^2-bX-1)より,  X^4 +1\bmod pで可約.
  (iii) c^2=-1となるc\in\mathbb{F}_pが存在するとき,
X^4+1=(X^2+c)(X^2-c)より,  X^4 +1\bmod pで可約.
ここで,  p=2なら(iii)となるので,  以下p\neq 2とする.  事実.4より\left(\displaystyle\frac{-2}{p}\right)=\left(\displaystyle\frac{-1}{p}\right)\left(\displaystyle\frac{2}{p}\right)であるから,  (i)(ii)(iii)のうちどれかが必ず成り立つ.  よって,  X^4 +1\bmod pで可約.
 \Box
 

*1:\mathbb{F}_p:=\mathbb{Z}/p\mathbb{Z}

*2:\overline{gh}=\bar{g}\bar{h}が成り立つことは容易に示せます.

*3:ルジャンドル記号はp=2のときは考えない.